「創業時に買った営業車を下取りに出したら、その収入は売上に入れるの?」「パソコンを売却したけど、事業所得と譲渡所得のどちらで申告すればいいの?」——年の途中で事業用資産を売却・買い替えした際、収入の区分を誤って申告してしまうケースは少なくありません。とくにスタートアップや個人事業主の方は、帳簿上の処理と確定申告書への記載が噛み合わず、税務調査で指摘を受けることもあります。本記事では2026年分の確定申告に向けて、車両・PC・機械装置を例に、譲渡所得と事業所得の正しい振り分け方を具体的な仕訳とともに解説します。
01なぜ「事業所得」に混ぜてしまう誤りが多いのか
事業で使っていた資産を売却した場合、その売却代金は「事業の収入」と考えてしまいがちです。実際に事業用の口座に入金されるため、会計ソフト上でも売上や雑収入として計上してしまう方が多くいらっしゃいます。
しかし、所得税法上、事業所得の計算に含めてよい資産の売却収入は限定されています。原則として、事業用の固定資産(車両・PC・機械装置など)の売却は「譲渡所得」として別途計算する必要があります。
事業所得になるもの・譲渡所得になるものの区分
- 事業所得になるもの:棚卸資産(商品・製品・原材料)の売却、事業で反復継続して売買する資産の売却
- 譲渡所得になるもの:事業用の固定資産(車両運搬具・器具備品・機械装置など)の売却
つまり、創業期に購入した営業車やパソコンを数年後に売却・下取りに出した場合、その売却益は事業所得ではなく譲渡所得として申告するのが正しい取扱いです。
ポイント:所得税法第33条では、資産の譲渡による所得は原則として「譲渡所得」に区分されます。ただし棚卸資産や、営利目的で継続的に行われる資産の譲渡は除かれます(所得税法第33条第2項)。事業用の固定資産は棚卸資産ではないため、売却益は譲渡所得に該当します。
02譲渡所得の計算方法と50万円特別控除
事業用固定資産の売却による譲渡所得は、「総合課税の短期譲渡所得」または「総合課税の長期譲渡所得」として計算します。土地・建物の譲渡のような分離課税ではなく、他の所得と合算して課税される点に注意してください。
短期・長期の判定基準
- 短期譲渡所得:取得日から売却日までの所有期間が5年以内
- 長期譲渡所得:取得日から売却日までの所有期間が5年超
譲渡所得の計算式
譲渡所得の金額は次のように求めます。
- 譲渡収入金額(売却代金・下取り価額)を確認する
- 譲渡時の帳簿価額(取得価額 − 減価償却累計額)を算出する
- 譲渡費用(売却にかかった手数料等)があれば集計する
- 「譲渡収入 −(帳簿価額 + 譲渡費用)」で譲渡益を算出する
- 特別控除50万円を差し引く(短期・長期を合算して最大50万円)
長期譲渡所得に該当する場合は、特別控除後の金額をさらに2分の1にした金額が課税対象となります。短期譲渡所得は全額が課税対象です。なお、特別控除の50万円はまず短期譲渡所得から控除し、残額があれば長期譲渡所得から控除します。
03具体仕訳で見る——営業車を下取りに出したケース
前提条件
- 2022年4月に営業車を200万円で購入(耐用年数6年・定額法)
- 2026年9月に新車に買い替え、下取り価額80万円
- 2026年1月〜9月の減価償却費:約25万円(月割計算)
- 2026年9月時点の帳簿価額:約67万円(計算の便宜上端数調整)
- 所有期間は約4年5か月 → 短期譲渡所得に該当
帳簿上の仕訳(事業の帳簿)
事業の帳簿では、資産の除却処理を行います。売却代金との差額を「事業主借」「事業主貸」で処理するのが一般的です。
(1)売却時の仕訳
普通預金 800,000 / 車両運搬具 670,000
/ 事業主借 130,000
下取り代金80万円が入金され、帳簿価額67万円との差額13万円は「事業主借」として処理します。この13万円が譲渡益に相当しますが、事業所得の収入には計上しません。
(2)当年分の減価償却費
減価償却費 250,000 / 車両運搬具 250,000
2026年1月〜9月までの月割償却費を経費計上します。この処理は売却仕訳の前に行います。
確定申告書への記載
譲渡益13万円は確定申告書の「譲渡所得」欄に記載します。具体的には以下のとおりです。
- 確定申告書第三表(分離課税用ではなく総合課税の譲渡所得として第一表・第二表で処理)
- 「総合譲渡・短期」の欄に収入金額80万円、必要経費67万円を記載
- 差額13万円から特別控除50万円を差し引き → 課税される譲渡所得は0円
このケースでは50万円の特別控除の範囲内に収まるため、譲渡所得に対する税負担は発生しません。
04PC・機械装置の売却——少額資産の注意点
パソコンや小型の機械装置を売却する場合も基本的な考え方は同じです。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 一括償却資産(20万円未満)として処理したもの:3年均等償却の途中で売却しても、残存帳簿価額は引き続き3年で償却します。売却代金全額が譲渡収入となります。
- 少額減価償却資産の特例(30万円未満)で即時償却したもの:帳簿価額が0円(または備忘価額1円)のため、売却代金のほぼ全額が譲渡益になります。
仕訳例:帳簿価額1円のPCを3万円で売却
普通預金 30,000 / 器具備品 1
/ 事業主借 29,999
譲渡益29,999円は譲渡所得として申告します。50万円の特別控除内であれば、課税はされません。
注意:フリマアプリやオークションサイトで事業用資産を売却した場合も同様に譲渡所得として申告が必要です。「個人間取引だから申告不要」と誤解される方がいますが、事業用資産の売却である以上、所得の区分は変わりません。また、消費税の課税事業者の場合、事業用資産の売却は課税売上に該当する点にもご注意ください。
05法人の場合は取扱いが異なる
ここまで解説してきた「譲渡所得」と「事業所得」の区分は、個人事業主(所得税)に特有の論点です。法人の場合は所得の区分という概念がなく、固定資産の売却益はすべて法人の益金(固定資産売却益)として一括して課税されます。
小規模法人の経営者の方は、役員個人で所有している車両を会社に売却する場合など、個人と法人の間の取引で時価との乖離がないかにも注意が必要です。
06申告ミスを防ぐための実務チェックリスト
- 事業用固定資産の売却・下取りがあったか、年末に必ず棚卸しする
- 売却時点の帳簿価額(取得価額 − 減価償却累計額)を正確に計算する
- 売却代金は事業所得の売上・雑収入に含めず、「事業主借」で処理する
- 所有期間が5年以内か5年超かを確認し、短期・長期を判定する
- 確定申告書の譲渡所得欄に正しく記載し、50万円の特別控除を適用する
- 消費税の課税事業者は、売却代金を課税売上として消費税申告にも反映する
- 事業用の固定資産(車両・PC・機械装置)の売却益は、事業所得ではなく「譲渡所得」として申告する
- 帳簿上は売却代金と帳簿価額の差額を「事業主借」で処理し、事業所得の収入には含めない
- 総合課税の譲渡所得には最大50万円の特別控除があり、少額の売却益であれば課税されないケースが多い
- 所有期間5年超の長期譲渡所得はさらに2分の1課税となり税負担が軽減される
- 法人の場合は所得区分の問題はなく、固定資産売却益として法人税の計算に含める
- 消費税の課税事業者は、事業用資産の売却を課税売上に含めることを忘れずに
