「年末までに設備を買えば今期の経費に落とせる」——創業期の経営者なら一度は耳にしたことがあるフレーズではないでしょうか。決算が近づく12月、節税のために急いで設備投資を決断する方は少なくありません。しかし、納品が間に合っても「事業供用日」の要件を満たさなければ、当期の減価償却費として計上できないことをご存じですか。本記事では、2026年12月期決算の法人・個人事業主を想定し、駆け込み取得で失敗しないための判定フローチャートと具体的な仕訳例を解説します。
01「取得日」と「事業供用日」は別物——まず押さえるべき基本ルール
減価償却は、資産を「事業の用に供した日」から開始されます(法人税法施行令第59条、所得税法施行令第126条)。ここでいう「事業の用に供した日」とは、単に資産を購入した日や届いた日ではなく、実際にその資産を事業のために使用し始めた日、または使用できる状態に置いた日を指します。
よく混同される3つの日付
- 発注日(契約日):売買契約を締結した日。手付金を払っていても、これだけでは取得にあたりません。
- 納品日(検収日):物理的に資産が届き、検収が完了した日。引渡し基準での「取得日」はここになります。
- 事業供用日:設置・調整・試運転などを経て、実際に事業で使える状態になった日。減価償却のスタートラインはここです。
つまり、12月28日に届いた製造機械であっても、設置工事やソフトウェアのセットアップが年明けの2027年1月にずれ込めば、2026年12月期の減価償却費には算入できません。
ポイント:「事業供用日」の判定は実態に基づきます。税務調査では納品書・設置工事完了報告書・試運転記録・業務日報などを基に「本当にその期中に使える状態だったか」が確認されます。形式的に日付を合わせても、実態が伴わなければ否認されるリスクがあります。
02判定フローチャート——その設備、当期の経費になりますか?
以下のフローチャートで、年末に取得した減価償却資産が当期(2026年12月期)の損金に算入できるかを判定してみましょう。
判定フロー(12月決算法人・12月31日が事業年度末の場合)
- STEP 1:取得価額は10万円未満か?
→ はい:少額減価償却資産として全額損金算入可能(事業供用日が期中であれば)。STEP 4へ。
→ いいえ:STEP 2へ。 - STEP 2:取得価額は30万円未満か?(青色申告の中小企業者等)
→ はい:少額減価償却資産の特例(措法28の2・67の5)の適用を検討。年間合計300万円の上限に注意。STEP 4へ。
→ いいえ:通常の減価償却。STEP 3へ。 - STEP 3:取得価額は30万円以上
→ 法定耐用年数に基づき月割り(法人)または月割り(個人・定額法)で償却。事業供用月が12月なら、当期は原則1か月分のみ計上。STEP 4へ。 - STEP 4:2026年12月31日までに「事業供用」されているか?
→ はい:当期の減価償却費(または全額損金算入)を計上可能。
→ いいえ:当期の損金算入は不可。翌期(2027年)からの減価償却開始。
多くの方がSTEP 1〜3の金額判定に意識を向けますが、実は最も重要なのはSTEP 4の事業供用日の判定です。ここで「いいえ」になると、いくら年末に購入しても当期の経費にはなりません。
03具体的な仕訳例——当期計上できるケース・できないケース
ケース1:当期に損金算入できる場合
12月決算の法人A社(資本金500万円・青色申告)が、2026年12月15日に25万円のPCを購入し、同日からすぐに業務に使用開始した場合。
取得価額30万円未満のため、少額減価償却資産の特例を適用して全額を当期の損金に算入できます。
(仕訳)
借方:消耗品費(または減価償却費) 250,000円
貸方:普通預金 250,000円
ケース2:当期に損金算入できない場合
同じA社が、2026年12月20日に150万円の業務用機械を購入。12月27日に納品されたが、設置に専門業者の工事が必要で、工事完了が2027年1月10日になった場合。
事業供用日は2027年1月10日となるため、2026年12月期の減価償却費は計上不可。翌期から償却を開始します。
(期末時点の仕訳)
借方:建設仮勘定(または機械装置) 1,500,000円
貸方:普通預金 1,500,000円
※ 当期の減価償却費は計上しません。
注意:「届いた設備をとりあえず倉庫に保管しているだけ」の状態も事業供用とは認められません。棚卸資産や販売用商品であれば話は別ですが、自社使用の減価償却資産は「使える状態に置いた」ことが必要です。製造ラインに組み込む機械、ソフトウェアのインストールが必要なPC、内装工事と一体の設備などは特に注意してください。
04駆け込み購入で失敗しないためのスケジュール逆算術
2026年12月31日までに事業供用を完了させるには、発注から逆算してスケジュールを組む必要があります。以下は目安です。
逆算スケジュール例(12月31日事業供用を目指す場合)
- 11月上旬まで:設備の選定・見積もり取得・社内稟議
- 11月中旬まで:発注・契約締結
- 12月上旬〜中旬:納品・検収
- 12月中旬〜下旬:設置工事・初期設定・試運転
- 12月下旬(遅くとも12月28日頃まで):事業供用開始・稼働確認
年末年始は業者の休業期間と重なるため、設置工事や試運転の日程が取れないことも多くあります。12月31日ギリギリではなく、少なくとも12月25日頃までに稼働確認まで終えるスケジュールが安全です。
証拠書類として残しておくべきもの
- 注文書・契約書(発注日の証明)
- 納品書・受領書(納品日の証明)
- 設置工事完了報告書(設置完了日の証明)
- 試運転記録・動作確認報告書(事業供用日の証明)
- 業務日報や作業ログ(実際に業務で使用した事実の証明)
税務調査で事業供用日が争点になったとき、これらの書類が揃っているかどうかで結論が変わります。「買った」だけでなく「使い始めた」ことを客観的に示す資料を必ず保管してください。
05創業期こそ慎重に——よくある失敗パターン3選
失敗1:受注生産品を12月に発注して納品が間に合わない
オーダーメイドの機械や特注仕様の設備は、納品まで数か月かかることが珍しくありません。12月に発注しても年度内に届かなければ当然計上不可です。
失敗2:ソフトウェアのライセンスだけ購入し、導入設定が翌期に
クラウド会計や業務システムなど、ライセンス購入後にカスタマイズやデータ移行が必要なケースでは、「使える状態」になるまでに相当な期間がかかることがあります。
失敗3:内装工事の一部が年内に完了しない
店舗の内装工事は建物附属設備として減価償却の対象になりますが、工事が年をまたぐ場合は、完了部分と未完了部分を区分する必要があります。全体が一体の工事であれば、全体完了まで事業供用とは認められない可能性があります。
- 減価償却のスタートは「購入日」でも「納品日」でもなく「事業供用日」。事業で使える状態になった日が基準。
- 12月に届いても、設置工事やセットアップが翌年にずれ込めば当期の損金には算入できない。
- 少額減価償却資産の特例(30万円未満)も事業供用日の要件は同じ。金額要件だけで判断しないこと。
- 駆け込み取得を成功させるには、11月上旬から逆算してスケジュールを組み、12月25日頃までに稼働確認を完了させるのが安全。
- 納品書・設置完了報告書・試運転記録など、事業供用日を客観的に証明する書類を必ず保管する。
