「9月30日が決算日なのに、役員報酬の支払日が10月1日になってしまう――この場合、未払計上で当期の損金に入れていいのだろうか?」創業期のスタートアップ経営者からよくいただくご質問です。定期同額給与の要件は意外と細かく、知らずに処理すると税務調査で否認されるリスクもあります。2026年9月決算を控える法人の方に向けて、具体的な仕訳例とともに整理します。

01そもそも「定期同額給与」とは何か

法人税法第34条第1項第1号では、役員に対する給与のうち損金算入が認められるものとして「定期同額給与」を定めています。これは、その支給時期が1か月以下の一定期間ごとであり、かつ各支給時期における支給額が同額であるものを指します。

定期同額給与の3要件

  1. 支給時期が1か月以下の一定期間ごとであること(例:毎月25日、毎月末日など)
  2. 各支給時期の支給額が同額であること
  3. 事業年度を通じて継続して支給されていること(期中改定は原則として期首から3か月以内に限定)

創業1期目の法人であっても、設立日から3か月以内に役員報酬の額を決定し、以後毎月同額を支給していれば定期同額給与として損金算入が認められます。

02期末日に未払計上が必要になるケース

2026年9月決算法人の場合、決算日は2026年9月30日(水曜日)です。今年は平日に当たるため大きなズレは生じにくいのですが、問題になりやすいのは次のようなケースです。

ケース1:支払日が「月末」で銀行振込処理が翌日になる場合

役員報酬の支払日を「毎月末日」と定めている場合でも、経理処理や振込手続きの都合で実際の着金が翌営業日(10月1日)にずれることがあります。このとき、9月30日時点では「未払金」として計上し、当期の損金に算入できるかが論点になります。

ケース2:支払日を「翌月5日」等に設定している場合

たとえば「当月分の役員報酬を翌月5日に支払う」と定めている場合、9月分の役員報酬は10月5日支払いとなります。この場合、9月30日時点で9月分を未払計上して当期の損金にできるかが問題です。

ポイント:役員報酬の損金算入時期は「債務確定基準」に従います。支給日が到来していなくても、その月の労務提供が完了し、金額が確定している場合は、未払計上による損金算入が認められます。法人税基本通達9-2-11では、定期同額給与について「当該事業年度において各支給時期に確定額を支給する旨の定め」があれば足りるとされています。

03未払計上が「認められるケース」と「否認されるケース」

認められるケース

  • 株主総会または取締役会で役員報酬月額50万円と決議済み
  • 4月から8月まで毎月50万円を支払日(毎月25日)に支給している
  • 9月分も同額50万円を9月25日に支給済み

この場合は、支払日どおりに支給されているため未払計上の論点自体が生じません。通常どおり損金算入されます。

一方、支払日を「翌月10日」と定めている場合、9月分の役員報酬50万円は10月10日支払いです。この場合でも、9月の労務提供に対応する債務として9月30日に未払計上し、当期の損金に算入することが認められます。

否認されるケース

  • 決算月だけ2か月分を未払計上する:たとえば8月分・9月分をまとめて9月末に未払計上し、定期同額給与の趣旨を逸脱している場合
  • そもそも支給の決議がない:株主総会や取締役会の議事録がなく、金額が確定していない場合
  • 過去の支給実績と矛盾する:過去の月に支給が飛んでいる、金額がバラバラであるなど、定期同額給与の要件を満たしていない場合
  • 実際には翌期以降も長期間支払わない:未払計上したまま何か月も支払わない場合は、債務確定の実態がないと判断されるリスクがあります

04具体的な仕訳例で確認する

前提条件

9月決算法人(事業年度:2025年10月1日〜2026年9月30日)、役員報酬月額50万円、支払日は翌月10日、源泉所得税・住民税・社会保険料の預り金は簡略化して記載します。

2026年9月30日(決算日)の仕訳

9月分の役員報酬を未払計上します。

  • (借方)役員報酬 500,000円 /(貸方)未払費用 430,000円
  • (貸方)預り金(源泉所得税等) 70,000円

※ 源泉所得税等の金額は説明用の概算です。

2026年10月10日(翌期・支払日)の仕訳

  • (借方)未払費用 430,000円 /(貸方)普通預金 430,000円

この処理により、役員報酬50万円は2026年9月期(当期)の損金として計上され、実際の支払いは翌期の10月10日に行われます。定期同額給与の要件を満たしている限り、この未払計上は適正に損金算入されます。

注意:未払計上した役員報酬は、翌月の支払日に確実に支払ってください。未払のまま放置すると「実際には支給していない」と判断され、損金算入を否認されるだけでなく、源泉徴収義務の履行時期にも影響します。源泉所得税は、未払計上した月の翌月10日までに納付が原則です(納期の特例適用法人は半年ごと)。

05期末直前に慌てないための確認手順チェックリスト

2026年9月の決算を迎える前に、以下の項目を確認しておきましょう。

  1. 議事録の確認:役員報酬の金額が株主総会議事録(または取締役会議事録)に記載されているか
  2. 支給実績の一覧作成:設立月から9月まで、毎月の支給日・支給額を一覧表にまとめ、定期同額給与の要件(同額・同時期)を満たしているか確認
  3. 支払日の確認:9月分の支払日が10月以降になる場合、未払計上が必要かどうかを判定
  4. 社会保険料・源泉税の処理確認:未払計上する場合の預り金計上と、源泉所得税の納付期限を再確認
  5. 翌期の支払スケジュール:未払計上した金額を確実に支払日に振り込めるよう、資金繰りを確認

特に創業1期目は、設立日と報酬支給開始月のズレ、届出の有無など見落としやすいポイントが多くあります。顧問税理士がいる場合は、遅くとも決算月の1か月前(8月中)には確認を済ませておくことをお勧めします。

06創業期に特有の注意点

設立初年度の「3か月ルール」

役員報酬の額を変更できるのは、原則として事業年度開始から3か月以内です。設立初年度の場合は設立日から3か月以内に決定・支給を開始すれば定期同額給与として認められます。たとえば2026年1月15日設立・9月決算の法人なら、2026年4月14日までに支給を開始する必要があります。

資金繰りの都合で支払いを遅らせたい場合

創業期は資金繰りが厳しく「今月は役員報酬を払えない」という状況も起こりえます。しかし、一度でも未支給の月があると定期同額給与の要件を満たさなくなり、その事業年度全体の役員報酬が損金不算入となるリスクがあります。報酬額の設定は、資金繰りを十分に考慮して慎重に決定してください。

この記事のまとめ
  • 定期同額給与の要件(同額・同時期・継続支給)を満たしていれば、期末日時点での未払計上による損金算入は認められる
  • 未払計上が認められるのは、労務提供が完了し金額が確定している場合。決算月だけ2か月分まとめて計上するなどの操作は否認リスクが高い
  • 未払計上した役員報酬は、翌月の支払日に確実に支払うこと。長期間未払のまま放置すると損金算入を否認される可能性がある
  • 源泉所得税の納付期限にも注意。未払計上した場合でも、原則として翌月10日までの納付義務がある
  • 創業1期目は議事録の整備・支給実績の記録・支払スケジュールの管理を、決算月の1か月前までに確認しておくと安心