「気づけばもう9月——8月の試算表を見たけれど、このまま決算を迎えたら税金がいくらになるのか見当がつかない」。9月決算法人の経営者にとって、決算月に入ってからの焦りは毎年のことかもしれません。しかし、残り約1か月あれば合法的にできる対策はまだあります。本記事では、8月試算表をもとに決算着地を予測し、法人税・消費税の概算税額を算出する手順から、優先順位付きの利益調整策、そしてやってはいけないNG行動までを一気に解説します。
01まずは8月試算表で「決算着地」を1時間で見積もる
試算表のどこを見ればいいのか
会計ソフトから出力した8月末時点の試算表(残高試算表)で、最低限チェックすべき数字は次の3つです。
- 売上高(累計):4月〜8月の11か月累計ではなく、事業年度開始月(10月)〜8月の11か月累計を確認します。9月決算であれば2025年10月〜2026年8月が対象です。
- 売上原価・販管費(累計):同じ期間の経費合計を確認します。
- 経常利益(累計):上記の差額であるこの数字が、着地予測のベースになります。
9月単月の「上乗せ」を見込む
過去の月次推移表から9月の売上・経費の平均値を出し、8月累計に加算します。創業1期目で過去データがない場合は、直近3か月の平均値を使うと実務的です。
たとえば8月累計の経常利益が480万円、9月の見込み利益が50万円なら、決算着地見込みは約530万円となります。
02法人税・消費税の概算税額を30分で算出する
法人税等のざっくり計算
中小法人(資本金1億円以下)の場合、課税所得800万円以下の部分には法人税率15%が適用されます(2026年9月期決算においても適用)。これに法人住民税・法人事業税を加味した「実効税率」は、おおむね次の目安で概算できます。
- 課税所得800万円以下の部分:約24〜25%
- 課税所得800万円超の部分:約34〜35%
先ほどの例で課税所得が530万円と見込まれるなら、概算税額は530万円 × 25% = 約132万円です。ここに別途、均等割(東京都特別区の場合で最低7万円)が加わります。
消費税の概算
課税売上にかかる消費税額から、課税仕入にかかる消費税額を差し引いた金額が納付額です。簡易課税を選択している場合は、みなし仕入率を用いて計算します。インボイス制度により2割特例を適用できる事業者は、売上税額の2割が納付額の目安となります。
ポイント:税額の概算は「精密さ」より「スピード」が重要です。細かい加算・減算は税理士に任せ、まずは±10%程度の精度で「キャッシュアウトの規模感」を掴みましょう。この段階で「思ったより利益が出ている」と気づければ、残り1か月の対策に十分な時間を確保できます。
03残り1か月で実行可能な利益調整策——優先順位つき
ここからが本題です。残り約1か月(2026年9月中)に実行でき、かつ合法的な利益調整策を、「効果の大きさ」と「実行のしやすさ」の観点から優先順位をつけて整理します。
【優先度A】すぐ着手すべき施策
- 未払費用・未払金の洗い出し
9月中に役務提供を受けているが支払いが翌月になる経費(例:9月分の外注費、9月利用分の通信費やリース料など)は、未払計上することで当期の損金に算入できます。請求書の到着を待つのではなく、契約書や発注書をもとに能動的に洗い出すことがポイントです。追加コストゼロで利益を適正に反映できるため、最優先で取り組みましょう。 - 少額減価償却資産の購入(30万円未満)
中小企業者等の特例を活用すれば、取得価額30万円未満の減価償却資産は年間合計300万円まで全額を損金算入できます。パソコン、ソフトウェアライセンス、オフィス家具など、近い将来に購入予定だったものを9月中に前倒しで購入・納品完了させましょう。ただし「使う予定のないもの」を買うのは本末転倒です。
【優先度B】条件が合えば検討すべき施策
- 決算賞与の支給決定
決算日(9月30日)までに支給額を各従業員に個別通知し、翌月末(10月31日)までに実際に支給すれば、当期の損金として認められます。従業員のモチベーション向上にもつながりますが、キャッシュアウトを伴うため資金繰りとの兼ね合いを忘れずに確認してください。 - 経営セーフティ共済(倒産防止共済)の前納
月額掛金の上限は20万円で、1年分を前納(最大240万円)すれば全額損金に算入できます。ただし、すでに加入済みであることが前提で、新規加入には手続き期間が必要です。創業間もない場合は加入要件(1年以上の事業実績)を満たしているか確認しましょう。 - 短期前払費用の特例活用
家賃や保険料など、継続的に役務提供を受ける費用について1年分を一括前払いした場合、一定の要件を満たせば支払時に全額損金算入が可能です。ただし翌期以降も同じ処理を継続する必要がある点に注意してください。
【優先度C】余裕があれば検討
- 修繕費の前倒し実施:予定していたオフィスや設備の修繕を9月中に完了させる。
- 不良在庫・不良債権の処理:売れ残り在庫の評価損計上や、回収不能な売掛金の貸倒処理を検討する(要件が厳格なため税理士に相談)。
04やってはいけないNG行動
節税を急ぐあまり、次のような行動に走ると税務調査で否認されるリスクや、そもそも経営を傷めるリスクがあります。
- 使う予定のない物品の大量購入:事業との関連性が説明できない支出は損金として認められません。
- 架空の外注費や経費の計上:これは節税ではなく脱税です。重加算税(35〜40%)の対象になります。
- 決算賞与の「通知だけ」で未払放置:翌月末までに実際に支給しなければ損金算入は認められません。通知書だけ作って支払わないのは否認の典型例です。
- 売上の繰延べ:9月中に納品やサービス提供が完了しているにもかかわらず、請求書の発行を翌月に遅らせて売上を翌期に計上する行為は、収益の計上時期を恣意的に操作するものであり認められません。
注意:「利益調整」と「粉飾・脱税」は全く異なります。合法的な利益調整とは、本来計上すべき費用を漏れなく計上し、税制上認められた特例を正しく活用することです。実態のない取引を作り出す行為は、金額の大小にかかわらず重大なリスクを伴います。
051日で完了させるためのタイムスケジュール例
以下は、9月上旬の1日を使って着地予測から対策の意思決定までを完了させるスケジュール例です。
- 午前(9:00〜12:00):会計ソフトから8月試算表を出力 → 決算着地見込みを算出 → 法人税・消費税の概算税額を計算
- 昼休み:頭を整理。ここまでの数字をメモにまとめる
- 午後前半(13:00〜15:00):優先度Aの未払費用洗い出し → 購入予定の少額資産リストアップ → 決算賞与の原資確認
- 午後後半(15:00〜17:00):税理士へ相談・共有 → 対策の実行スケジュール確定 → 9月中の発注・手続きを開始
ポイントは、午前中に「数字の現状把握」を終わらせ、午後に「打ち手の意思決定」に集中することです。数字の把握と対策検討を同時にやろうとすると、どちらも中途半端になりがちです。
06まとめ
- 8月試算表の経常利益に9月見込みを加算し、決算着地を予測する。精度より「スピード」を重視する。
- 法人税等の概算は、課税所得800万円以下なら実効税率約25%を目安に算出。消費税も忘れずに。
- 残り1か月の利益調整は「未払費用の洗い出し(コストゼロ)」を最優先に、少額資産購入・決算賞与・共済前納と順に検討する。
- 架空経費の計上や売上の繰延べは脱税行為であり、絶対にやってはいけない。
- 着地予測から対策の意思決定まで、1日あれば十分完了できる。早めに税理士と共有し、9月中に実行を終わらせよう。
