「親から事業資金として300万円を援助してもらったけれど、そのまま事業用口座に入れて経費の支払いに使ってしまった」——年末が近づくこの時期、スタートアップ経営者や個人事業主の方からこうしたご相談が増えてきます。親族からの資金援助はありがたいものですが、贈与と事業資金の区別を曖昧にしたまま年を越すと、贈与税の申告漏れと事業所得の過大計上という二重のリスクを抱えることになります。本記事では、2026年の最新制度を踏まえ、実務上よくある3つの指摘パターンと、それを防ぐための具体的な手順を整理します。

01なぜ年末に「贈与と事業資金の混同」が起きやすいのか

毎年12月は、暦年贈与の枠(1月1日~12月31日)を使い切ろうとする親族からの資金移動が集中する時期です。創業期の経営者は手元資金が不足しがちなため、贈与を受けた資金をそのまま事業用口座に入金し、仕入代金や外注費の支払いに充ててしまうケースが少なくありません。

この行為自体が直ちに違法というわけではありませんが、次の2つの帳簿上の処理を正しく行わないと、税務調査で問題になります。

  • 贈与を受けた事実と金額を個人の贈与税申告に正しく反映すること
  • 事業の帳簿上、贈与資金の入金を「売上」や「雑収入」ではなく「事業主借」等として区別すること

特に個人事業主の場合、事業用口座と個人口座を明確に分けていないと、税務署側から見れば「申告されていない売上」に見えてしまう危険があります。

02税務調査で指摘される3つのパターン

パターン1:暦年贈与110万円枠を超えた贈与の申告漏れ

2026年現在、暦年課税における贈与税の基礎控除額は年間110万円です。親から200万円の資金援助を受けた場合、110万円を超える90万円に対して贈与税がかかります。しかし、事業口座に直接入金されると「事業に関する入金」として処理してしまい、贈与税の確定申告(翌年2月1日~3月15日)を失念するケースが多発しています。

税務調査では、事業用口座への入金のうち売上や取引先からの入金と紐づかないものについて、その原資を細かく確認されます。「親からの援助です」と口頭で説明しても、贈与契約書や送金記録がなければ、追徴課税に加えて無申告加算税・延滞税が課される可能性があります。

パターン2:相続時精算課税の届出漏れ・届出要件の誤解

2024年1月以降の贈与から適用されている改正後の相続時精算課税制度では、基礎控除110万円が新設され、暦年課税と同じく年110万円までは申告不要とされています。しかし、相続時精算課税を選択するためには、最初の贈与を受けた年の翌年3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を所轄税務署に提出する必要があります。

創業に集中するあまりこの届出を忘れてしまうと、暦年課税として扱われ、累積2,500万円の特別控除が使えないまま高い税率で課税されるリスクがあります。さらに、一度相続時精算課税を選択すると暦年課税には戻れないため、事前のシミュレーションなしに安易に選択することも危険です。

ポイント:相続時精算課税の届出は「贈与者ごと」に行います。父からの贈与には相続時精算課税、母からの贈与には暦年課税、といった使い分けも可能です。どちらが有利かは将来の相続財産の規模にも左右されるため、創業時の資金計画と合わせて税理士に相談することをおすすめします。

パターン3:贈与資金の事業口座入金による事業所得の過大計上

個人事業主が親族から受け取った200万円を事業用口座に入金し、帳簿上「雑収入」として処理してしまったケースでは、本来は事業所得ではない金額が所得に加算され、所得税・住民税・事業税が過大に計算されます。一方で贈与税の申告を行っていなければ、「所得税は払いすぎ、贈与税は未納」という歪な状態になります。

税務調査でこの状態が発覚した場合、所得税の更正(減額)と贈与税の決定(増額)が同時に行われることがあり、結果的に贈与税の無申告加算税や延滞税の方が大きく、トータルの税負担が増えるケースがほとんどです。

03混同を防ぐための実務手順5ステップ

以下の5つのステップを年末の資金移動前に実行しておくことで、贈与税の申告漏れと事業所得の誤計上を同時に防ぐことができます。

  1. 贈与契約書を作成する——金額・日付・贈与者と受贈者の氏名を明記し、双方が署名押印します。書面がなくても贈与は成立しますが、税務調査対策として書面は必須です。
  2. 個人口座で受け取る——贈与資金はまず個人名義の口座で受け取り、事業に使う分だけ事業用口座に振り替えます。振替時の摘要欄には「事業主借(個人資金より)」と記載します。
  3. 帳簿上の処理を明確にする——事業用口座に入金した場合は「事業主借」勘定を使い、売上や雑収入とは絶対に混同しないようにします。法人の場合は「役員借入金」として処理します。
  4. 贈与額の年間集計を行う——同一年中に複数の親族から贈与を受けている場合、すべての贈与額を合算して110万円を超えるか確認します。超える場合は翌年3月15日までに贈与税の申告が必要です。
  5. 相続時精算課税を検討する場合は届出期限を管理する——2026年中に初めて相続時精算課税を選択する場合、届出書の提出期限は2027年3月15日です。届出書には贈与者の戸籍謄本等の添付書類も必要なため、早めに準備を始めてください。

注意:法人の場合、経営者個人が受けた贈与を会社の口座に入金すると「役員からの借入金」か「役員からの贈与(受贈益)」かで法人税の取扱いが異なります。特に資本金1,000万円未満の小規模法人では、役員借入金の残高が膨らむと金融機関からの評価にも影響するため、入金の性質を明確にしておく必要があります。

04法人経営者が特に注意すべきポイント

法人を設立したばかりの経営者が、個人で受けた贈与資金を法人口座に入金するケースも多く見られます。この場合、以下の2点に注意が必要です。

  • 個人側の贈与税申告:贈与を受けたのはあくまで経営者「個人」です。法人口座に入金したとしても、贈与税の納税義務は個人に残ります。
  • 法人側の会計処理:法人口座への入金は「役員借入金」として処理するのが一般的です。返済条件や利息の有無を書面で残しておくと、税務調査時の説明がスムーズになります。金銭消費貸借契約書を作成しておくことを強く推奨します。

なお、法人が直接贈与を受けた場合は贈与税ではなく法人税の課税対象(受贈益)となりますので、個人への贈与とは取扱いがまったく異なる点にもご注意ください。

052026年末に向けて今からやっておくべきこと

2026年も残り約3か月となりました。年末に向けて親族からの資金援助を予定している方は、以下のチェックリストを活用してください。

  • 今年中に受け取る贈与の合計額を試算し、110万円を超えるか確認する
  • 贈与契約書のひな型を準備しておく
  • 事業用口座と個人口座を明確に分けているか再確認する
  • 相続時精算課税の選択を検討している場合は、税理士に相談のうえシミュレーションを行う
  • 過去に贈与税の申告漏れがないか、あらためて確認する(過去6年分が調査対象となり得ます)

特に創業1~2年目の方は、資金繰りに追われて税務手続きが後回しになりがちです。年末の慌ただしい時期に正しい処理を行うためにも、今のうちから準備を進めておきましょう。

この記事のまとめ
  • 親族からの贈与資金を事業用口座にそのまま入金すると、贈与税の申告漏れと事業所得の過大計上という二重のリスクが生じる
  • 暦年贈与110万円の基礎控除を超える贈与には、翌年3月15日までに贈与税の確定申告が必要
  • 相続時精算課税を選択する場合は届出書の提出期限と添付書類を事前に確認する
  • 贈与資金は個人口座で受け取り、事業に使う分は「事業主借」(法人なら「役員借入金」)として帳簿処理する
  • 贈与契約書の作成と送金記録の保存が、税務調査対策の基本となる