「事業用にWi-Fiルーターを買ったけれど、これは消耗品費で落とせるの?」「モバイルルーターと一緒に買った外付けアンテナも含めて資産計上が必要?」——テレワークや外出先での業務が当たり前になった2026年、創業期の経営者からこうしたご相談が増えています。本体価格だけ見れば数千円〜数万円の買い物ですが、処理を誤ると税務調査で指摘を受けるリスクもあります。本記事では、通信機器の経費処理・減価償却・按分計算のポイントを実務目線で整理します。
01まず確認——10万円基準で処理方法が変わる
事業用のWi-Fiルーターやモバイルルーターを購入した場合、最初に確認すべきは「取得価額が10万円未満かどうか」です。
10万円未満の場合
取得価額が10万円未満(税込経理なら税込、税抜経理なら税抜で判定)であれば、購入した事業年度に「消耗品費」として全額を一括経費にできます。一般的なWi-Fiルーターは5,000円〜30,000円程度、モバイルルーター本体も10,000円〜50,000円程度の価格帯が多いため、多くのケースでは一括経費処理が可能です。
10万円以上20万円未満の場合
取得価額が10万円以上20万円未満の場合は、次の選択肢があります。
- 一括償却資産として3年間で均等償却する
- 少額減価償却資産の特例(青色申告の中小企業者等に限る)を使い、年間合計300万円まで全額経費にする
- 通常の減価償却を行う
20万円以上の場合
業務用の高性能ルーターや、メッシュWi-Fiシステムを一式で導入した場合など、取得価額が20万円以上になるケースでは、原則として資産計上し減価償却を行います。ただし青色申告の中小企業者等は、30万円未満であれば少額減価償却資産の特例が使える点も覚えておきましょう。
ポイント:取得価額には本体価格だけでなく、送料・設置費用・初期設定費用など「その資産を事業に使える状態にするまでにかかった費用」を含めて判定します。例えば、ルーター本体が88,000円でも、外付けアンテナ15,000円と設置工事費5,000円を合算すると108,000円となり、10万円を超えてしまうケースがあります。
02Wi-Fiルーター・モバイルルーターの耐用年数は何年?
資産計上が必要な場合に悩むのが耐用年数です。Wi-Fiルーターやモバイルルーターは、減価償却資産の耐用年数等に関する省令において、「器具及び備品」の中の「事務機器及び通信機器」の「その他の通信機器」に該当し、耐用年数は10年とされています。
ただし、実務上は以下の点に注意が必要です。
- 電話設備その他の通信機器の「デジタル構内交換設備」に該当する場合は耐用年数6年
- パソコンの周辺機器として一体で使用する場合でも、独立して機能するルーターはパソコン(耐用年数4年)とは別に判定する
- 実際の使用可能期間が法定耐用年数より著しく短い場合は、耐用年数の短縮申請が認められる可能性もある
なお、10万円未満で一括経費処理できるケースがほとんどですので、耐用年数を気にする場面は限定的です。高機能ルーターやネットワーク機器一式の導入時に確認するようにしましょう。
03付属品・セット購入品の取得価額の考え方
創業期には「ルーター+LANケーブル+中継器+外付けアンテナ」といったセットでまとめて購入するケースも少なくありません。この場合、取得価額の判定方法がポイントになります。
「一組」で判定するケース
付属品がルーター本体と一体として機能する場合(例:専用の外付けアンテナ、専用クレードルなど)は、本体と付属品を合わせた合計額で10万円基準を判定します。これは「通常1単位として取引されるもの」として一組で判定するためです。
個別に判定できるケース
一方、汎用的なLANケーブルやUSBアダプターなど、他の機器でも使える汎用品は、ルーター本体とは別に個別で判定できます。LANケーブル1本500円であれば、当然それ単体で消耗品費として処理可能です。
判断に迷う場合は、購入時の納品書やレシートで「一式」としてまとめられているか、個別の商品として記載されているかも参考になります。
04私用との按分計算——根拠資料はこう残す
自宅兼事務所でWi-Fiルーターを使う個人事業主の方は、事業使用割合に応じた按分(家事按分)が必要です。法人であっても、代表者の自宅に設置して私用にも使う場合は同様の考え方が求められます。
按分割合の決め方
按分割合を決める方法はいくつかありますが、合理的な根拠が示せることが大切です。
- 使用時間で按分:1日の業務時間と私的利用時間の比率(例:業務8時間・私用4時間なら事業割合約67%)
- 接続端末数で按分:事業用端末3台・私用端末2台なら事業割合60%
- 部屋の面積で按分:自宅の事業用スペース割合をそのまま適用する方法
いずれの方法でも、税務調査の際に説明できるよう、按分割合を決定した根拠と計算過程を書面で残しておくことが重要です。具体的には、以下のような記録を保管しておきましょう。
- Wi-Fiルーターに接続している端末リスト(事業用・私用の区分付き)
- 1日あたりの業務利用時間の概算メモ(月ごとに記録するとベター)
- 按分計算書(Excelシートなどで割合と金額を明記したもの)
注意:按分割合を「なんとなく50%」で済ませてしまう方が少なくありませんが、根拠なく一律50%とするのは税務調査で否認されるリスクがあります。実態に即した割合を算出し、その計算根拠を記録として残すことを習慣にしましょう。
05勘定科目の使い分け——本体・月額通信料・プロバイダ料は別々に
Wi-Fiルーター周りの費用は、その内容によって勘定科目を使い分けるのが実務上のポイントです。
- ルーター本体の購入費(10万円未満)→「消耗品費」
- ルーター本体の購入費(10万円以上で資産計上)→「器具備品」として資産計上し減価償却
- 月額の通信回線料・モバイルルーターの通信費→「通信費」
- プロバイダ契約料(初期費用・月額)→「通信費」(初期費用が高額でも繰延資産に該当しない限り支出時の経費)
- レンタルルーターのレンタル料→「賃借料」または「通信費」
なお、モバイルルーターを通信会社から「実質0円」や「1円」で購入した場合は、端末代と通信費が一体の料金プランになっていることがあります。この場合、契約書や請求明細で内訳が確認できれば分けて処理し、分離できなければ全額を「通信費」として処理するのが実務的です。
06創業期に押さえておきたい実務のコツ
最後に、創業期の経営者が通信機器の経費処理で失敗しないための実務的なコツをまとめます。
- レシート・納品書は購入直後にデータ化:感熱紙のレシートは時間が経つと印字が消えます。購入当日にスキャンまたは撮影して保存しましょう。
- 付属品と本体は合計額を確認してから会計処理:10万円を超えるかどうかの判定漏れを防ぎます。
- 按分割合は開業時に一度しっかり決める:毎月変動させる必要はありませんが、事業環境が大きく変わった場合は見直しましょう。
- 通信契約書はクラウドで保管:プロバイダや通信会社との契約内容は、按分根拠や勘定科目の判断材料になります。
判断に迷う場合は、自己判断で処理を進める前に税理士へ相談するのが確実です。創業期は取引のパターンが少ないうちにルールを固めておくことで、後々の会計処理がぐっと楽になります。
- Wi-Fiルーター・モバイルルーターは取得価額10万円未満なら「消耗品費」で一括経費処理が可能
- 付属品(専用アンテナ・クレードル等)は本体と一体で取得価額を判定する。合算で10万円を超えないか要確認
- 資産計上が必要な場合の耐用年数は「事務機器及び通信機器——その他の通信機器」で10年が原則
- 私用との按分は「使用時間」「接続端末数」「面積」等の合理的な基準で行い、計算根拠を書面で残す
- 本体購入費は「消耗品費」または「器具備品」、月額通信料やプロバイダ料は「通信費」と勘定科目を使い分ける
