「期末が近づいて利益が思ったより出そうだけれど、今から節税できる手段はないだろうか」——3月決算の創業期スタートアップでは、こうした悩みが毎年のように生まれます。そんなときに有力な選択肢となるのが、従業員への「決算賞与」の支給です。しかし、未払計上で損金に算入するためには厳格な要件があり、一つでも満たさなければ税務上の経費として認められません。本記事では、2026年3月決算法人を想定しながら、決算賞与の要件・仕訳・キャッシュアウトのタイミングまでを具体例付きで解説します。

01決算賞与とは?──期末利益の調整弁として活用される理由

決算賞与とは、事業年度の業績に応じて期末付近に支給する臨時的な賞与のことです。通常の夏・冬のボーナスとは異なり、「利益が出た年だけ支給する」柔軟な運用ができるため、特に創業期の小規模法人で節税手段として多く活用されています。

たとえば、2026年3月期の決算で当期利益が300万円出る見込みのスタートアップが、従業員3名に各30万円・合計90万円の決算賞与を支給する場合、法人税等の実効税率を約34%とすると、約30万円の税負担軽減が見込めます。もちろん90万円のキャッシュアウトは発生しますが、従業員のモチベーション向上にもつながるため、一石二鳥の施策として注目されています。

02未払計上で損金算入するための3要件(法人税法施行令72条の3)

決算賞与を期末時点で未払計上し、当期の損金として認めてもらうには、法人税法施行令72条の3に定められた以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 期末日までに支給額を各人別に、かつ全額受給者に通知していること
    口頭ではなく書面やメール等で個別に通知し、その記録を残すことが重要です。
  2. 通知した金額を、通知した全員に対して事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること
    2026年3月期であれば、2026年4月30日までに実際に振込等で支払う必要があります。
  3. その事業年度の損金経理(未払金として計上)をしていること
    決算書上で未払賞与として費用計上する会計処理が必要です。

注意:3名の従業員のうち1名への支給が4月30日を1日でも過ぎた場合、その1名分だけでなく全額の損金算入が否認されるリスクがあります。「一部だけ遅れても大丈夫」という認識は誤りですので、必ず全員分を期限内に支給してください。

通知の証拠はどう残す?

税務調査で最も論点になりやすいのが「期末日までに通知していたかどうか」です。創業期の少人数法人では、社長が口頭で伝えて済ませてしまうケースが多いのですが、それでは証拠が残りません。以下のいずれかの方法で通知の記録を確保しましょう。

  • 各従業員に宛てた「決算賞与支給通知書」を作成し、受領印をもらう
  • 各従業員個人のメールアドレスへ支給金額と支給予定日を記載したメールを送信する
  • 社内チャットツール等で個別メッセージとして通知し、送信日時のスクリーンショットを保存する

いずれの場合も、通知日が2026年3月31日以前であることが確認できる形式にしてください。

03届出は不要?──事前確定届出給与との違い

「賞与を出すには税務署へ届出が必要では?」という疑問をお持ちの方もいるかもしれません。結論から言えば、使用人(従業員)に対する決算賞与であれば、事前確定届出給与の届出は不要です。

届出が必要になるのは、役員に対する賞与(事前確定届出給与)のケースです。役員賞与は原則として損金不算入であり、損金に算入するためには株主総会の決議後に所定の届出書を期限内に税務署へ提出しなければなりません。

社長自身への決算賞与はNG

創業期の法人では社長=唯一の役員というケースが少なくありません。「自分にも決算賞与を出して節税したい」と考えるかもしれませんが、役員への決算賞与は事前確定届出給与の届出をしていなければ損金算入できません。しかも届出は支給時期・金額を事前に確定させる必要があるため、「利益が出たから急いで支給する」という使い方はそもそもできない制度設計になっています。

ポイント:決算賞与で節税できるのは従業員に対する支給のみです。役員報酬の見直しで節税したい場合は、期首から定期同額給与の設定を検討する必要があります。創業期の役員報酬設計については、お早めに税理士へご相談ください。

04仕訳と経理処理の具体例

2026年3月期決算で従業員3名に各30万円、合計90万円の決算賞与を未払計上するケースの仕訳を確認しましょう。

期末(2026年3月31日)の仕訳

(借方)賞与 900,000円 /(貸方)未払費用(または未払金) 900,000円

このとき、社会保険料の会社負担分(概算約14%とすると約126,000円)についても、法定福利費として未払計上することが可能です。

(借方)法定福利費 126,000円 /(貸方)未払費用 126,000円

支給時(2026年4月中)の仕訳

(借方)未払費用 900,000円 /(貸方)普通預金 765,000円(源泉所得税・社会保険料等控除後の手取額)、預り金 135,000円(源泉所得税・社会保険料等)

源泉所得税の金額は各従業員の扶養状況や前月給与額により異なりますので、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて正確に計算してください。

05資金繰りへの影響──キャッシュアウトのタイミングに要注意

決算賞与で節税できるとはいえ、4月末までに現金で全額支払う必要があるため、キャッシュフローへの影響は避けられません。創業期の法人では、以下の点を事前に確認してから決算賞与の金額を決めましょう。

  • 4月の入金予定:売掛金の回収時期を確認し、賞与支払いに充てられる資金があるか
  • 4〜5月の固定費:家賃・給与・社会保険料など固定的な支出を差し引いても資金が足りるか
  • 法人税等の納付:3月決算法人は5月末が確定申告・納付期限。決算賞与で税額が減っても、残りの納税資金は確保できるか
  • 消費税の納付:消費税の確定申告も同じく5月末期限。とりわけ創業2期目以降で課税事業者となった法人は見落としがち

先ほどの例で考えると、90万円の決算賞与を支給することで約30万円の税負担が減りますが、差し引き約60万円のネットキャッシュアウトが発生します。「節税のために資金繰りが苦しくなった」という本末転倒な事態を避けるため、手元資金には十分な余裕を持った上で金額を決定してください。

06創業期に見落としがちな実務上の落とし穴

1. 1人社長+パートの構成で「従業員」がいないケース

社長1人だけの法人では、そもそも従業員がいないため決算賞与の活用はできません。パートやアルバイトを雇用している場合はその方への支給は可能ですが、雇用関係が明確であることが前提です。業務委託先への支払いは賞与ではなく外注費となり、性質がまったく異なりますので注意してください。

2. 退職予定者への通知

期末日までに支給を通知した従業員が、翌月の支給日前に退職してしまった場合でも、通知どおりの金額を支給しなければ要件を満たさなくなります。3月末に退職予定の従業員がいる場合は、在職中に支給を完了させるか、決算賞与の対象から外すかを事前に判断しましょう。

3. 通知日と決算日が同日になる場合の実務

3月31日が土日祝日にあたる年度は、実質的に3月最終営業日までに通知を済ませる必要があります。2026年3月31日は火曜日ですので問題ありませんが、ギリギリのスケジュールは避け、遅くとも3月最終週の前半には通知を完了させることをおすすめします。

この記事のまとめ
  • 決算賞与の未払計上で損金算入するには、期末日までの個別通知・翌月末までの全額支給・損金経理の3要件をすべて満たすこと
  • 届出が必要なのは役員賞与(事前確定届出給与)であり、従業員への決算賞与は届出不要
  • 社長自身(役員)への決算賞与は原則として損金算入できないため、従業員がいる法人でのみ活用可能
  • 通知は書面・メール等で証拠を残し、税務調査に備える
  • 4月のキャッシュアウトと5月の法人税等納付を見据え、資金繰りに余裕がある範囲で支給額を決定する
  • 2026年3月決算法人は、3月中に金額の検討と従業員への通知を済ませ、4月30日までに確実に支給を完了させる