「入金がまだだから、とりあえず売掛金で処理しておこう」——創業期の経営者や個人事業主の方から、このような声をよくお聞きします。しかし、まだ受け取っていないお金をすべて「売掛金」に計上してしまうと、決算書の数字が歪み、銀行や日本政策金融公庫の融資審査でマイナス評価を受けるリスクがあります。本記事では、2026年8月時点の実務に即して「売掛金」と「未収入金」の正しい使い分けを具体仕訳付きで解説します。
01そもそも「売掛金」と「未収入金」は何が違うのか
売掛金=本業の売上に対する未回収代金
売掛金とは、企業の主たる営業活動(本業)から生じた売上代金のうち、まだ回収していない金額を指します。たとえばWeb制作会社であれば、クライアントに納品したサイト制作代金の未回収分がこれに当たります。
未収入金=本業以外の取引から生じた未回収代金
未収入金(未収金とも呼ばれます)は、主たる営業活動以外の取引で発生した債権です。具体的には次のようなケースが該当します。
- 固定資産(車両・備品など)を売却したが、代金がまだ振り込まれていない
- 保険会社から受け取る保険金が未入金である
- 有価証券を売却した代金が受渡日前で未着である
- 貸付金の利息が計上済みだが入金されていない(未収収益と区別する場合もあり)
ポイント:判断の軸は「その取引が本業(主たる営業活動)に該当するかどうか」です。同じ「まだ受け取っていないお金」でも、発生原因によって使う勘定科目が変わります。会社の定款に記載された事業目的や、実態として反復継続している取引かどうかで判断しましょう。
02混同するとどんな問題が起こるのか——決算書への悪影響
流動比率・売上債権回転期間が歪む
売掛金と未収入金はどちらも貸借対照表の「流動資産」に計上されるため、流動比率(流動資産÷流動負債)自体は大きく変わりません。しかし、金融機関が重視する「売上債権回転期間」に大きな影響が出ます。
売上債権回転期間は次の算式で計算されます。
売上債権回転期間(日)=(売掛金+受取手形)÷ 売上高 × 365
本来「未収入金」に計上すべき金額まで売掛金に含めてしまうと、分子が膨らみ、回転期間が実態より長く算出されます。たとえば年商3,000万円の会社で、固定資産売却代金200万円を誤って売掛金に入れると、回転期間が約24日も余計に長くなる計算です。
融資審査でのマイナス評価
売上債権回転期間が長いと、金融機関は「売上代金の回収が遅い」「架空売上や不良債権が含まれているのではないか」と懸念します。創業期はただでさえ実績が少ないため、勘定科目の誤りが審査担当者の不信感を招きかねません。
03具体仕訳で確認——ケース別の正しい処理
ケース1:本業の売上(Web制作代金)が未回収
Web制作会社がサイト制作を完了し、請求書50万円を発行。入金は翌月末の場合。
【納品時】
(借方)売掛金 500,000 /(貸方)売上高 500,000
【入金時】
(借方)普通預金 500,000 /(貸方)売掛金 500,000
ケース2:業務用車両を売却し代金が未回収
帳簿価額80万円の車両を100万円で売却。代金は翌月振込の場合。
【売却時】
(借方)未収入金 1,000,000 /(貸方)車両運搬具 800,000
/(貸方)固定資産売却益 200,000
【入金時】
(借方)普通預金 1,000,000 /(貸方)未収入金 1,000,000
ケース3:火災保険金の請求中
事務所の設備が破損し、保険会社に保険金30万円を請求。決算日時点で未入金の場合。
【決算時】
(借方)未収入金 300,000 /(貸方)雑収入 300,000
【入金時】
(借方)普通預金 300,000 /(貸方)未収入金 300,000
注意:不動産業のように固定資産の売買が本業に含まれる場合は、その売却代金の未回収は「売掛金」に該当します。同じ取引でも業種によって勘定科目が変わるため、自社の主たる営業活動が何かを正確に把握しておくことが重要です。
04融資面談での説明ポイント
金融機関の審査担当者は決算書を細かく分析します。以下のポイントを意識しておくと、面談時にスムーズに説明できます。
- 未収入金の内訳を一覧化しておく:決算書に未収入金が計上されている場合、「何に対する未収か」「いつ入金予定か」を一覧表にまとめておくと、審査担当者の理解が早まります。
- 売上債権回転期間を自ら算出し提示する:正しい売掛金残高に基づく回転期間を計算し、「業界平均と比較して妥当な水準です」と説明できれば、信頼度が格段に上がります。
- 回収サイトの根拠を示す:売掛金の入金サイクルが長い場合は、契約書や取引条件を示して合理的な理由があることを証明しましょう。
05創業期に実践してほしい3つの管理ルール
勘定科目の混同を防ぐため、創業1期目から以下のルールを習慣化しましょう。
- 仕訳入力時に「本業の売上か否か」を必ず確認する:クラウド会計ソフトで自動仕訳を使っている場合でも、摘要欄に取引の性質を記載して後から確認できるようにしてください。
- 決算前に売掛金の内訳を棚卸しする:期末残高に含まれる一つひとつの取引を確認し、本業以外の債権が混入していないかチェックします。
- 補助科目や取引先タグを活用する:売掛金には取引先別の補助科目、未収入金には内容別(「車両売却」「保険金」など)の補助科目を設定しておくと、期末の確認作業が効率化されます。
06迷ったら税理士に相談を
創業期は日々の業務に追われ、経理処理が後回しになりがちです。しかし、勘定科目の使い分けは決算書の信頼性を左右し、融資審査にも直結する重要な問題です。「この取引はどちらの科目で処理すべきか」と迷った場合は、早めに税理士へ相談することをおすすめします。
平川文菜税理士事務所では、創業期のお客様向けに記帳チェックや決算書のレビューを行っております。勘定科目の判断にお困りの方は、お気軽にお問い合わせフォームからご相談ください。
- 「売掛金」は本業の売上代金の未回収、「未収入金」は本業以外(固定資産売却・保険金など)の未回収に使う
- 勘定科目を混同すると売上債権回転期間が実態より長くなり、融資審査でマイナス評価につながるリスクがある
- 判断基準は「主たる営業活動に該当するかどうか」。業種によって同じ取引でも科目が変わる点に注意
- 決算前に売掛金の内訳を棚卸しし、本業以外の債権が紛れ込んでいないか確認する習慣をつける
- 融資面談では未収入金の内訳一覧と正しい売上債権回転期間を提示し、回収サイトの根拠も示せるようにしておく
